2、
部屋の入り口の辺りから、誰かが話をする声が聞こえてくる。小声でしゃべっているので、断片的な言葉しか聞き取れない。
「幻覚……要領を得ない……」
「私たちをひどく怖がって……」
しゃべっている男の声には聞き覚えがなかった。
「妄想が……脳の……」
「多くの場合、青年期に発症…………」
すると将人の声がした。駿の声も聞こえる。将人と駿が何かを問いかけて、それに対して男性が答えているようだった。
「先天的な……」
男のボソボソとした低い声は、民喜の耳にはほとんど聞き取れない。それにひどく眠かったので、民喜は目を瞑ってそのまま横になっていた。いま自分は夢の中にいるのか、それとも現実の中にいるのかよく分からない。……
いつの間にか、男性の気配は消えていた。
「何か……納得いかねえな」
将人の呟く声が聞こえ、二人がベッドの脇の椅子に座る音がした。
ゆっくりと目を開ける。すぐそばに駿と将人が座っているのが見える。眼鏡をかけていないので、二人の表情までははっきりと分からない。
これはやはり夢なのだろうか? それとも、夢じゃないのだろうか?
二人に話しかけようとしたとき、
「妄想じゃねえ!」
突然、駿が大声を出した。民喜はハッとして駿の顔を見た。ぼんやりとしか表情は分からないが、駿は眼前のどこか一点を睨み付けているようだった。
「駿、民喜起きたぞ」
将人のささやく声が聞こえる。
「妄想という言葉で片づけるな……」
駿は今度は呻くように呟いた。民喜の視線に気づいたのか、駿はこちらの方を向いた。そうして民喜の右手を強く握り、
「民喜、今回のこと、絶対になかったことにさせねえからな」
まっすぐに目を見つめて言った。
民喜は何がなんだかよく分からないまま、頷いた。