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朝、目を覚ますと、カーテンの隙間から青空が見えた。数日ぶりに見る青空だった。

結局、今日の国会前デモには行かないことにした。

布団から上半身だけを起こし、民喜は山口凌空(りく)にラインを送った。

 

――ごめん、また風邪がぶり返したみたいで、今日の金曜デモ、行けなくなった。ごめん

 

追加で、涙を流している顔文字を添えてみる。山口はまだ寝ているのか、しばらく待ってみても既読にはならなかった。

体調不良と嘘をついてしまったからには、今日の授業も休む必要がある。大学で山口と顔を合わせてしまったらやっかいだ。今日は金曜日の第1回目の授業で、休むと困ることになるのは分かっているのだけれど……。

スマホの画面を見つめている内に、だんだんと不安が沸き上がってきた。

1回目の授業を休んでしまったら、もうその授業についてゆくことができなくなるんじゃないか。そうすると単位を落としてしまうんじゃないか。単位を落としたら卒業できなくなってしまうんじゃないか……。

スマホを布団の上に置き、カーテンから覗く青空に目を遣る。

それに、秋の定演も近いのに。

目を覚ましたばかりであるのに、何だか眠い。頭がボーっとして、どうもスッキリとしない。山口からの返信は確認しないまま布団に横になり、民喜は二度寝をする体勢へと入っていった。

 

再び目を覚ますと、昼の12時を過ぎていた。山口からはただ一言、

――りょ

と返信が来ていた。

上半身を起こしたまま、ぼんやりと前を見つめる。小鳥のさえずりの合間から、か細くツクツクボウシの鳴き声が聴こえてくる。頭がスッキリしない感覚は消えていたが、代わりに異様な心細さが民喜を捉えていた。

立ち上がり、台所に行って電気ケトルに水を入れる。まだ何も食べていなかったので、とりあえず何か腹に入れておこうと思う。食器棚から非常時のために買っておいたカップラーメンを取り出す。

麺がお湯でふやけるのを待っている間にパソコンを立ち上げる。Yahoo!のトップページを開くと、「**川の堤防が決壊」というタイトルが目に留まった。この2日間の記録的な豪雨により**市の川の堤防が決壊し、住宅地が浸水したことが報じられている。被害の全容はいまだつかめていない状況であるらしい。東京でもここ数日激しい雨が降っていたが、他県でこれほどの被害が出ていたなんて……。

記事には氾濫した川の水に流される住宅の写真も添えられていた。写真を見た瞬間、民喜はあの震災を想い起こした。

微かに動悸がしてきたので急いで別の記事をクリックする。心臓がドクドクと高鳴り、口の中に苦い液体を飲み込んだような不快さを感じた。

カップラーメンと箸を手に取ってきて、再びパソコンの前に座る。たわいもない芸能ニュースを読むともなしに眺めながら麺をすする。胸の内の不安をかき消すように汁も勢いよく飲み干した。

食べ終わるとお湯を再び沸かし、インスタントコーヒーを入れて飲んだ。

カップラーメンを食べ、熱いコーヒーを飲むと、民喜はようやくわずかに落ち着きを取り戻した心地になった。

 

 

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作者:鈴木太緒(すずき・たお)

   岩手県花巻市在住。猫3匹と同居。

お問い合わせ:neanderthal.no.asa@gmail.com