4、

山口と将人は気が合うのか、さっきからずっと小声でしゃべり続けている。二人は性格的に何となく似ているところがあるのかもしれない。民喜と駿は特にやることもなく、山口が差し入れてくれた雑誌をパラパラと眺めていた。

すると入口から、

「こんにちは」

 女性のか細い声がした。ハッとして顔を上げる。目の前に彼女が立っていた。

「明日香さん!」

 デパートの紙袋を手に持つ彼女は椅子に座る山口に気付き、

「山口君、一昨日はありがとう」

 と会釈をした。山口は微笑んで、

「いやいや、こちらこそ」

素早く手を振った。

将人と駿は立ち上がって、興味深げに民喜と明日香の顔を見比べている。彼女は今日は白のニットのトップスを着て、黒色のマキシスカートを履いていた。

民喜は髪に寝癖がついていないか素早く確かめ、

「明日香さん、この度は色々、本当にありがとう」

 幾分緊張しながら礼を言った。

「いえいえ。民喜君……具合はどう?」

「うん、ありがとう。だいぶ元気になったよ。明日、退院できるって」

「よかった」

明日香はぱっちりとした切れ長の目で民喜を見つめた後、下を向いて恥ずかしそうに微笑んだ。

次に話す言葉を探していると、

「あの、民喜君。これ、よかったら」

 彼女は紙袋の中から綺麗に包装された箱を取り出した。

「ゼリー。もしよかったら」

「ありがとう」

差し出されたゼリーの箱を大切に受け取る。

「じゃあ、ちょっと俺たち、一服してくるわ」

 駿と将人はそそくさと部屋を出て行こうとした。二人を彼女に紹介するのを忘れていたことに気づく。

「あっ、明日香さん。僕の地元の親友。駿と将人」

「こんにちは」

明日香は微笑んで会釈をした。

「こんにちは。明日香さん、民喜を宜しくお願いします」

 駿と将人は並んで、深々とお辞儀をした。頭を下げる将人の肩が小刻みに揺れている。どうやら笑いを堪えているようだった。

「じゃあ、俺もそろそろ」

山口が椅子から立ち上がった。

「落ち着いたら、また連絡してな。じゃ!」

「ホント、ありがとう」

 山口の背中に声をかける。山口は振り返って、片手を挙げた。山口の姿が消えた瞬間、廊下から三人の弾けるような笑い声が聞こえてきた。

 

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作者:鈴木太緒(すずき・たお)

   岩手県花巻市在住。猫3匹と同居。

お問い合わせ:neanderthal.no.asa@gmail.com